昭和26年03月27日 衆議院 行政監察特別委員会

[088]
自由党(自由民主党) 岡延右エ門
田中証人は本年の2月24日、大村収容所におきまして、大体北鮮系の者が扇動してやらした事件だというふうに一般に受けとられておるのでありますが、要するに俗に申しますと、収容所の幹部をつるし上げたという事件があったはずですが、承知しておられますか。

[089]
証人(出入国管理庁第一部長) 田中三男
承知しております。

[090]
自由党(自由民主党) 岡延右エ門
どういう事件であったか、ひとつ説明願いたいと思います。

[091]
証人(出入国管理庁第一部長) 田中三男
一応収容所内の全般の空気をまず御説明いたしたいのでありますが、送還船が出ることが間近に迫って参りますると、たいていの強制送還者は帰りたくない者が多いのであります。

特に朝鮮の動乱以後、朝鮮に送還されました際に、向うで徴兵されるとか、あるいは悪質な、ことに徴兵忌避のために日本に行った、すなわち韓国を密出国したという者については、かなり向うでも取調べなり、処罰があるといううわさでありまするが、そういうことも手伝いまして、送還船が出る前には、収容者は送還をいやがりまして、非常に収容所内の室気が険悪になるのであります。

これはいつもそうでありまして、昨年の12月の10日過ぎに出しました際も、私は現地に行ったのでありますが、私自身も代表者等から、たびたびつるし上げに近い陳情攻めにあったのであります。そういう空気がいつも起るのであります。



[104]
自由党(自由民主党) 内藤隆
2、2点お伺いしたいと思います。

第1に、かように密入国者が多いということについて、終戦後の生活苦、社会不安におののいておる日本に、ことさらに密入国者が多くなったという理由は、一体どこにあるのか、そういう御研究をなされたかどうかを承りたい。

[105]
証人(出入国管理庁第一部長) 田中三男
密入国者の数は、必ずしもふえておるということは、これはごく最近の統計でありますが、はっきりはわからないのでありますけれども、3、4年前がやはり一番多かったのでありまして、3、4年前は年間1万6000~7000名を送還しております。これがむしろだんだん減って来ておるような傾向になっておるわけであります。最近は、先ほど申し上げましたように、月約200名内外入って来ております。もちろんこれは月によって違いがあるのでありまして、ある月には300名を越えることもあるし、ある月には120~130名という月もあるのでありますが、そういうわけで必ずしもふえておるとも言えないように思うのであります。

それからもう一つ、これは非常に奇異なのでありますが、朝鮮動乱が起きてから、むしろふえたければならないようにわれわれ常識上考えますが、この数字も必ずしもふえておらないのです。これは朝鮮海峡の警戒が非常に厳重になっておるとか、あるいは韓国方面で徴兵その他の関係で特に出国を厳重に取締っておるとか、いろいろな原因があるであろうと思いますが、朝鮮の戦争のために常識上考えればふえなければならぬようなものでありますが、必ずしも実際の数字はふえておらないように思われるのであります。

[106]
自由党(自由民主党) 内藤隆
数の増減の問題でなく、密入国者が敗戦日本というか、ともかくも物資の足らない、しかも社会不安の多いこの日本に向って、さような数字の密入国者があるという、その原因がどこにあるかです。またその密入国の目的が一体どこにあるのか、それをお聞きしたいのであります。

[107]
証人(出入国管理庁第一部長) 田中三男
密入国者は、もちろん韓国人には限らないわけであります。欧米人等もあるわけなのであります。しかしこれは数においてきわめて少いわけでありまして、われわれが強制送還いたしております大部分の者は韓人であります。これはやはり日本に非常に縁故があるとか、あるいは日本に従来住んだことがあるとか、そういうふうに土地になじみが多いこと、あるいは朝鮮海峡との間が地理的に非常に近いこと、さらにわれわれの想像いたしますのに、日本も非常に生活苦でありますが、韓国の実情は日本以上に、特に戦争後は日本以上の生活苦のために、日本をあこがれて来る者が多いのではないか、こういうふうに考えられるのであります。

[108]
自由党(自由民主党) 内藤隆
要するにどさくさまぎれに日本に入り込んで、そうして日本の社会あるいは経済界を混乱に陥れた一種のやみ屋というようなものが多いんじゃないかと思いますが、その点いかがですか。

[109]
証人(出入国管理庁第一部長) 田中三男
密入国者の大部分は、今お尋ねのような種類の者であります。

ただ朝鮮戦争後、戦争避難民というふうな、政治的亡命者までは行かないのでありますが、そういうのに似た種類の、要するに戦争を避けてのがれて来たというふうな人が出て来たわけでありますが、こういう人は収容所内でも非常にりっぱな態度であり、われわれの待遇に対しても常に感謝をされておる。その他の大部分を占めまする送還者は、今お尋ねのような種類の者であるという実情であります。

[110]
自由党(自由民主党) 内藤隆
朝鮮動乱以後の密入国者は、戦火をのがれて来た悲惨な人もおるということは想像し得るのですが、その中に思想的に、あるいはもっと端的に申しますと、共産党の指令等に基いて日本に入り込んで、一種の暴力革命の要素となっておるような者がいないでしょうか。

[111]
証人(出入国管理庁第一部長) 田中三男
現在出入国管理庁で取扱いました強制送還者の中に、具体的に今お尋ねのような種類の者ははっきりはつかまっておりません。

[112]
自由党(自由民主党) 内藤隆
そうすと、その密入国者をお調べになるときに、思想的な何かそういったことの調査はされないのですか。

[113]
証人(出入国管理庁第一部長) 田中三男
現在の私どもが基準にして働いておりまする登録令によりますると、連合国総司令官の許可なくして日本に入国し、かつ滞在した者に対してこれを退去強制するということになっておりまして、目的であるとか動機というものは、実は現在の出入国管理庁においては取調べの範囲外になっておるわけなのであります。ただ形式的というと悪いのでありまするが、大体形式的に正式の許可なしに入って来、また正式の許可なくして日本に滞在している者を国外に強制送還する。これが趣旨になっておりまして、目的であるとか動機であるとかいうことは問題にはなっておらないのでありまして、そういう意味において取調べもいたしておらないのであります。